訪問鍼灸、デイサービス、ヘルパー訪問等の役割
高齢者の訪問治療の経験を重ねていると世の中の移り変わりを目のあたりにします。
どんな経済状態に関わらず、子どもがいても同居せずに夫婦のみで生活しているか、伴侶が亡くなる、様々な理由で施設に入所し、やむなく一人暮らしをしているという方たちが実に多いです。
そこには人によって濃淡の違いはあるにしても、「不安と不幸」の気配が垣間見えるのを実感します。
ヘルパーの訪問やデイサービスなどに通所しない日は、人と会話するというごく「当たり前の日常」さえも失われます。鍼灸治療が奏功して、患者さんから訪問を「楽しみしている」「心待ちにしている」と言われるような関係になると、鍼灸師の定期的な訪問は「人付き合いの変化」に対応した、人とのつながりの一端を担うのに有効な方法になるとも自負しております。
家族が仕事などで外出し、昼間、患者さんが独居状態になっているとき、家族から治療後にお茶を供にして会話する時間を作って欲しいと頼まれることもめずらしいことではございません。
「私たちにとってありふれた仕事」にあると言えるでしょう。つまり、「まだ日常生活ができているレベルで『あっちが痛い』『こっちが痛い』っていう相談にしっかりと応えてゆく」ことです。日常的な生活動作が続けられるようなからだを保つことが、「当たり前の日常」を支えるためのひとつの重要なステップとなるのはことわるまでもありません。
例えば、「腰が痛い」「膝が痛い」という訴えを鍼灸治療で緩和し、腰下肢の運動法を手伝うことで廃用性筋萎縮を防ぎながら歩行機能を維持する、仮に歩行によるひとりでの外出はできなくなったとしても、室内での自立した生活動作が続けられることを目ざすことは、ケアの体制や「生活の質」に大きな影響を与えます。
さらにその運動法が、術者と患者さんとが「息を合わせる」ような共同的な営みとなる工夫がなされると両者の間に気の交感が生まれ、精神的な充実感をもたらすこともあり得ます。
高齢者の「当たり前の日常」を支えるのに鍼灸師の果たす役割は、決して小さくないと考えております。